ここに記述した文書は、すべて医師または薬剤師の漢方薬処方箋解説です。医薬品購入使用者の口コミ情報ではありません。
【女神散の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
夫とともにクリーニング店を切りもりしているJ子さん(52歳)。
わりあい元気で、大きな病気もなく毎日忙しく過ごしてきました。しかし、50の声を聞いてから生理が遅れ気味になり、肩こりやめまいに悩み始め、気分がふさいで接客もおっくうになってきたのです。また、ときにはイライラして夫にあたり、あまりしなかった夫婦喧嘩まで頻発する始末でした。
隣の漢方薬局の老店主がJ子さんのそんな様子に気付き、女神散と柴胡桂枝湯を勧めてくれました。服用し始めて3週間ほどで肩こりとめまいが治まり、さらに1ヵ月後には、気鬱もイライラもなくなりました。J子さんの回復を最も喜んでいるのは、八つ当たりの的だった夫だということです。
現代病名:更年期障害
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
51歳、女性。
【現病歴】3年前に閉経して以来、種々の不定愁訴に悩まされるようになった。人に勧められ、加味迫遥散の錠剤を半年飲んだが無効であったという。
いちばん苦しいのは何かとたずねると、めまいとのぼせであるという。か一つとのぼせてくると汗をかく。また不眠を訴える。
【現症】身長160cm、体重60㎏。
体格はがっちりして便秘がち。脈、舌に異常なく、夜間尿は1回。
また腹証上も特記すべきものはない。血圧134-82。
【経過】はじめ黄連解毒湯を与えたが無効。
ところでこの患者は、いろいろの症状を訴えたが、主訴はいつも、めまいとのぼせであった。そこで女神散に変方してみた。
すると1か月後に、ほてりが減少し、めまいもとれて気分が非常に楽になってきた。
5か月後にはだいぶ眠れるようになり、気分も落ち着いてきた。
11か月後、ほとんど汗をかかなくなった。めまいはしない。ほてりもすっかりおさまってとても気分がよい。「おかげで助かりました」と述べて廃薬した。
現代病名:更年期不定愁訴。特にめまいとのぼせ。
ポイント:『勿誤薬室方函口訣』女神散「此の方は元、安栄湯と名づけて軍中七気を治する方なり。余家、婦人血症に用いて特験あるを以って今の名とす。世に称する実母散、婦王湯、清心湯皆一類の薬なり。」
上記の『口訣岨にあるように、女神散はもともとは安栄湯といって、戦地での神経症の治療薬であった。これが婦人の血の道症に著効があるので浅田家で改名した処方であるという。
本処方は、血の道症、更年期障害、産前・産後あるいは流産後の自律神経失調症状に、のぼせとめまいとを目標に用いる。虚証と実証の中間ぐらいの体力があり、脈、腹ともに虚していない例に用いるとよい。
これらの虚証は、加味逍遙散証となることはよく知られたことである。私が大塚敬節先生のお宅に見学にうかがっていた昭和44年頃、この女神散と加味逍遙散との鑑別について質問したことがある。
その時先生は、次のように教えられた。
「来るたびに違うことをいうのは加味逍遙散。来るたびに同じことをいうのは女神散」