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【甘麦大棗湯の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
小学校三年の女子。
誤って転落して頭を強打し、人事不省に陥ること三日に及んだ。覚めてみると右半身不随となり、「昼夜に数十回も角弓反張(全身痙壁)の発作を起こして人事不省となる。覚めてみると、あくび頻発し、言語は不明瞭、諸治療をうけたが効がなかった。
診ると全身に軽度の浮腫があり、脈は緊でやや数、右腹直筋の撃急が強度で棒のようである。
甘麦大棗湯一カ月間服用ののち発作が減少し、10カ月で全治した。
現代病名:外傷後のひきつけ
16歳の男子。
一見頑健そうに見える。幼時脳膜炎にかかった。八歳のときから癒滴の発作を起こし、年とともに激しくなった。諸治療をうけたが治らず、ついに信仰に頼り、俄悔と祈りの行に励んでいた。しかし読経に熱中すれぱするほど発作が激しく、これは祖先の霊のたたりであると信じている。
脈は弦で、腹筋は緊張拘急し、肝臓が腫大し、圧痛がある。初め柴胡清肝散効なく、次に柴胡加竜牡湯を与えたが無効。再び柴胡清肝散にすると発作はいよいよ激しく、連続昏睡が三時間も続き、三日三晩発作の連続であった。
そこでこの急迫的発作と、その行動が神がかりの状態であるので、甘麦大棗湯にした。
これをのむと夢からさめたように発作はやみ、二カ月間続けているうちに、軽い発作が二度起こっただけで性格も一変して従順になった。このような猛烈な発作に柴胡剤や黄連解毒剤のような苦味は適当せず、甘味のあっさりしたものがよいようである。
現代病名:癇癪(かんしゃく)発作
戦後二年ほど経たころ、茨城の田舎で往診した。17歳の頑健そうな男子である。
半年ほど前から学校を休んで、呆然として毎日を過ごすようになった。何事をするにも意欲がなく、いかにも物憂い態度である。
この患者の特徴として、午後四時になるときまって自ら一室に入り、何事かを悲しむがごとく、さめざめと泣き続け、一時間ほどするとやみ、部屋から出てくるというのである。
患者は全く無表情で、自ら容態を訴えようとはしない。脈は特記すべきものはないが、腹部は堅く、板のように張りつめている。
婦人ではないが、しばしぱ悲しんで泣くという。その様はあたかも悪きものでもついたようで、毎日きまって一室に入って泣くということが、「喜悲傷架せんと欲し、象神霊のなすところのごとし」に相当するものとして、甘麦大棗湯を与えたところ、二カ月ほどで泣くことはやみ、漸次回復した。
現代病名:鬱病
食品会社に勤めるTさん(52歳・女性)は、月経が止まって数ヵ月が過ぎていました。
気分は落ち着かず、イライラして、生きるのも苦痛という、そんな状態が続いていたそうです。次第にやる気が失せ、仕事にも行かなくなってしまいました。初めてS病院に来たのは知り合いの紹介でした。以前友人がお世話になったということで、漢方薬を処方してくれる婦人科系の病院を選んだようです。
医者がTさんの症状をみると、目はつり上がり(怒っているような雰囲気)、手足は冷たく、のぼせがありました。そこで、加味逍遙散と甘麦大棗湯の2つが処方されることになったのです。
毎日欠かさず1ヵ月間、両処方を飲み続けたところ、気力が回復し仕事に行けるようになりました。
2ヵ月もすると、今度は体から冷えが取れ、月経が再び来たそうです。これは、漢方薬を飲んだことで、一度止まったと思われていた月経が再び起こり、体にたまった汚いものを全て洗い流してくれたのです。それ以降、気分は明るくなり、今まで以上に活発な生活を送っているそうです。
現代病名:更年期障害
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
2歳の男の子を持つ母親が「息子は敏感な子どもで癇(かん)が強く夜泣きがひどい」と漢方薬局に相談に来ました。連日のように続く子どもの夜泣きのせいで、母親の表情はうつろで明らかに疲れがたまっているようでした。
漢方薬局では、癇の強い夜泣きに効く抑肝散を勧められました。この漢方薬は苦みがわずかにあるので、細粒にしてミルクに混ぜたり、ジュースに入れるなどして、1日3回(分量は1g以下程度)飲ませたところ、約1週間で滴の虫が治まり夜眠れるようになったそうです。その即効性には母親も驚いてしまい、以来夜泣きで同じように悩んでいる母親を見ると、漢方薬を使ってみるように勧めているそうです。
この症例では抑肝散が処方されていますが、同じ夜泣きでも胃腸の弱い子どもには甘麦大棗湯が有効だと考えられています。甘麦大棗湯は、味が甘く苦みも少ないので、子どもにとっても飲みやすい漢方薬の1つです。大人が飲んでも神経が落ち着いてリラックスできます。そのため、不眠症の改善にもよく用いられる処方です。
現代病名:夜泣き
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
漢方を処方する病院に、夫同伴でやってきたAさん(32歳)が、初めに訴えたのは、冷え症治療でした。しかし、問診をしていくうちに、Aさんには冷え症だけでなく、軽度のヒステリーが隠されていることが分かりました。
聞くと、普段から不眠や不安にさいなまれており、食欲も不振とのこと。1人で電車に乗ろうとすると体調が悪くなるので、夫同伴で来院したといいます。
不眠と不安、虚弱体質、おなかに触れるとトクトクという拍動が感じられることから、Aさんには甘麦大棗湯と桂枝加竜骨牡蛎湯の2つが処方されました。
服用しはじめて2週間もすると、電車に乗っても大丈夫かもしれないという気持ちがわくようになりました。徐々に考え方も前向きになり、不安や心配事を抱え込むことがなくなってきたのです。2ヵ月を過ぎるころには、電車に乗っても体の不調が起こらなくなり、家族の同伴がいらなくなりました。
1年後、Aさんはすっかり明るく変身し、はつらつとした毎日を送っています。
現代病名:ヒステリー
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス