【大建中湯の臨床効果に関する・エビデンス】…根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)です。
●対象:外科手術後に単純性癒着性イレウスが発症し、医師がロングチューブを必要と判断した症例大建中湯投与群18例(男性12例、女性6例)。
大建中湯非投与群12例(男性9例、女性3例)、大建中湯投与群と非投与群は無作為割り付けを行った。
●方法:大建中湯をロングチューブより注入した。
投与期間は連続5日間以上とした。
腹部症状1所見、腹部X線検査、一般血液検査、イレウス管抜去までの期間などを評価し、イレウス改善度腹部所見自覚症状改善度、全般改善度、概括安全度、有用度を判定した。
ポイント:腹痛と悪心・嘔吐は投与5日目に有意差をもって大建中湯投与群が改善した。
その他の検討では、有意差がなかった。
概括安全度で安全でないと判定された例が5.6%であった。
有用度はきわめて有用が6例(33.3%)、有用が8例(44.4%)、有用でないが1例(5.6%)であった。
参考文献:Prog Med,15:1962-1967,1995.
●対象:1993年から1998年までに急性虫垂炎手術を受けた患者。
1995年までは大建中湯非投与で1996年以降は大建中湯を投与しており、2群間で後方視的に調査した。
大建中湯投与群70例(男性25例、女性45例)、非投与群72例(男性26例、女性46例)。
●方法:大建中湯を分3で1週間から6ヶ月投与した。
術後イレウスの発生を評価した。
ポイント:非投与群では3例(4.3%)に術後X線写真で鏡面像を認めた。3例とも保存的治療で軽快した。
投与群には便通異常を訴えた例がなく、全例イレウスを発症せず退院した。
参考文献:日本医事新報,3986:16-18,2000
●対象:癒着性イレウス患者で大建中湯証を有する患者52例(男性34例、女性18例)。
●方法:大建中湯を1日3回経口投与(22例)。
胃管から注入(18例)、経口・経管10例、2例が投与法不明であった。
自覚症状、腹部X線像投与後の排ガスまでの日数を評価した。
また主治医判定による総合評価有用度を判定した。
ポイント:腹部膨満感は5日後にやや改善以上が76.6%、腹痛は5日後にやや改善以上が782%、悪心嘔吐は同様の改善率が90.5%、下痢がみられた例は5日後で66.7%であった。
腹部X線像では軽度改善が5日後に76.1%、投与後の排ガスはナ2日目までに85.4%にみられた。
主治医の総合評価では、軽度改善以上が82.0%、有用度ではやや有用以上が88.5%であった。
投与開始時の症状と改善率に関する検討では、腹部膨満感、腹痛、腹壁の緊張がみられた群で改善率が高かった。
一方、蠕動不安の有無と改善率に有意な関連はなかった。
参考文献:Prog Med,12:1668-1672,1992.
●対象:平成6年4月から平成9年8月までに経験した不全イレウス、イレウス術後の患者89例。
投与群51例(男性30例、女性21例)、非投与群38例(男性20例、女性18例)。
●方法:投与群には、大建中湯を投与し、再発・手術移行例、副作用、腹部愁訴を評価した。
ポイント:再発例は投与群で3/51例、非投与群で7/38例、手術移行例は投与群で1/51例、非投与群で6/38例であった。
副作用として6例に下痢症状がみられたが、中止例はなかった。
腹満、嘔気・嘔吐、腹痛では70%以上の改善率であった。
寛解後の便通異常に対して50%の改善がみられた。
参考文献:Prog Med,18:906-909,1998.
●対象:大建中湯を投与した57例。内訳は、小児外科術後46例(術後便秘群26例、術後イレウス群11例、術後蠕動改善目的群9例)と、便秘を伴う非手術例は11例(非手術便秘群)。
●方法:大建中湯を経口または経管投与した。
便秘については、便秘スコアによる便通改善度と、腹満、身体発育を加えて有効度を評価した。
イレウス、蠕動改善度についても有効度を4段階で評価した。
ポイント:術後便秘群では26例のうち18例(75%:2例は判定不能)で、やや有効以上であり、非手術便秘群では11例のうち6例(67%:2例は判定不能)で、やや有効以上であった。
術後イレウス群では11例中10例(91%)で、やや有効以上で、術後蠕動改善目的群では、9例のうち8例(89%)が有効であった。
判定不能例は洗腸などを併用した症例を指す。
参考文献:小児外科,37:295-299,2005.
●対象:大腸癌の手術を受けた患者469例(開腹手術237例、腹腔鏡下手術232例)。
大建中湯投与群(TJ-100投与群)は343例(開腹手術164例、腹腔鏡下手術179例)、非投与群は126例(開腹手術73例、腹腔鏡下手術53例)である。
2群間に術式、重症度、性別、年齢、身長・体重に差はなく、病名と手術時間に有意差があった。
●方法:術後入院日数、医療費削減効果を検討した。
ポイント:開腹手術例の平均術後在院日数は、非投与群で17.3士6.0日、投与群では15.2±5.6日。
腹腔鏡下手術例ではそれぞれ、14.9±7.3日.10.6±5.5日と、投与群で有意に短かった。
医療費削減に関しては腹腔鏡下手術例で有意差がみられ、投与群のほうが非投与群に比較して約15万円の節減になっていた。
背景因子のうち術後入院日数に影響を与える要因は、術式、大建中湯の投与、重症度、手術時間。年齢であった。
参考文献:Prog Med,24:1398-1400,2004.
●対象:大腸癌に対して待機的根治術を施行した98症例(男性47例、女性51例)。術式は開腹手術75例、腹腔鏡下手術23例。
●方法:大建中湯の投与例が40例(開腹手術24例、腹腔鏡下手術16例)、非投与例が58例(開腹手術51例、腹腔鏡下手術7例)であった。
投与詳では第1または第2病日より開始し。投与期間は術後1ヶ月とした。2群間に背景因子の差はなかった。排ガス日、必要術後入院期間、腸閉塞所見をエンドポイントとした。
ポイント:排ガス日は投与群で2.4±O.7日、非投与群は3.4±1.6日と、投与群で有意に早く、術後入院日数も投与群で8.4±1.6日、非投与詳で12.3±7.1日と投与群で有意に短縮された。
術腸閉塞発生率は投与群で0%、非投与群で5.8%であった。
参考文献:日消外会誌,38:592-597,2005.
●対象:腹部外科手術後に術後イレウス(腸管運動不全によるもの)を発症した24症例(男性18例、女性6例)を無作為に大建中湯群とプラセポ群の2群に分け、臨床比較試験を行った。
●方法:両群の投与期間を14日間とした。
2群間に背景因子の差はなかった。
術後イレウスに対して手術適応となった頻度、術後イレウスの再発率をエンドポイントとした。
ポイント:術後イレウスに対して手術適応となった症例は大建中湯群で5/13例(38.5%)、プラセポ群では10/11例(90.9%)と有意に大建中湯例で再手術率は低かった。
術後イレウスの再発例は、大建中湯1/13例(7.7%)で、プラセポ群は、4/11例(36、4%)で、有意差はなかった。
●対象:肝切除患者84例(原発性肝癌43例、転移性肝癌24例、その他17例)。
ラクツロース群(L群:31例)、大建中湯群(投与群:27例)、コントロール群(C群:26例)の3群に分類した。
術前検査、手術時間、出血量に3群間で差はなかった。
●方法:術前には3群とも、ラクツロースを3日間経口投与した。
術後に、L群はラクツロースを、投与群には大建中湯を経口投与した。
血中アンモニア濃度排ガス効果、下痢について評価した。
ポイント:血中アンモニア濃度は投与群では、L群、C群に比較して低下していた。
原発性肝癌例、大量肝切除例でも有意に抑制された。
排ガス遅延症例は、投与群では、C群、L群に比較して有意に少なかった、L群の約80%で下痢がみられたが、投与群では50%以下であった。
参考文献:Hepato Gaastroenterology,52:161-165,2004
ここに記述した文書は、すべて医師または薬剤師の漢方薬処方箋解説です。医薬品購入使用者の口コミ情報ではありません。
【大建中湯の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
Yさん(53歳・男性)は、手術の後遺症で腸が癒着しています。
そのため、冷えると腸の活動が鈍り、おなかが痛くなります。漢方に詳しい医師に腸の動きをよくする大建中湯を勧められ、痛みが起こるたびにこれを服用していました。
以前はそれで痛みが治まっていたのですが、最近になって、それでも痛みが止まらないことが何度かあり、医師に相談したところ、へそから上の痛みには小建中湯、下の痛みには大建中湯を飲むとよいと教えられました。今ではこの方法で症状をコントロールしています。
現代病名:腹痛
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI
34歳の男子。
2~3年前より、寒い目にあったり、疲れたりすると胃痛が起こり、激しいときは吐く。
春と秋に多く起こる。手足は冷えやすく、血色はわるい。腹は全体に軟弱で、指頭で軽く腹壁を刺激して、しばらく凝視していると、腸管の蠕動運動を見ることができる。脈は遅弱である。
これをのむと疲れなくなり、ニカ月ほどで見違えるほど血色がよくなり、冷えも腹痛も起こらなくなった。
現代病名:胃痛嘔吐
22歳の未婚婦人。
約1年前から胃のぐあいが悪く、食後呑酸腹鳴をきたし、下痢が続き、わずか一年の間に5貫匁以上(約19kg)痩せ、現在36キロ(9貫500匁)しかない。全身倦怠感甚だしく、一日中ただ横臥している。諸治療も効なく、このままでは半年も命がもつまいと自ら考えている。
長身で骨と皮ばかり、一見骸骨のごとく、顔色蒼白、食思全くなく、むりに粥を流し込むと、あとで胃がもたれ、酸水が口中に逆流し、不快感が甚だしい。腹鳴が強く、蠕動亢進をときどき自覚し、自覚的には腹に力がなく、足の冷えが甚だしい。大便は二日に一回であるが、いつも下痢便で、月経は数カ月間ない。脈は沈遅弱で、舌は先の方は灰色、奥の方は褐色で、厚い乾燥した舌苔である。腹力軟弱、腹壁薄く、心窩部はわずかに抵抗と圧痛がある。
大建中腸を与えること96日、諸症好転し、4貫匁(15kg)も体重が増加をきたして全治廃薬した。
定義:1貫=(15/4)kg=3.75kg
1匁(mom)=3.75g
現代病名:胃下垂兼胃アトニー症
一婦人、30歳ばかり。
腹が張って大きく、腹中に痛みあり、便秘性で大便は堅い。医師は腹膜だという。
腹が張って大便が堅いので、大承気湯を与えた。すると便通があって、一時楽になったが、翌日は再び張って前と同じだという。そこでさらに承気を2~3回服したが、何ともらちあかず、これを裏寒として大建中湯を与えたところ、一貼にてさっぱりとして治った。
この人には吐気はなかった。
現代病名:腹膜炎
18歳の男子。
20日前に盲腸炎にかかり、内科治療をうけて軽快。一週間以来再び下腹部落痛を発した。
体温37度5分、脈浮弱数で、舌には黄苔あるも乾燥せず、上腹部は一般に軟弱であるが、下腹部は右腸骨窩部に類円形の小皿を伏したような膨隆と抵抗を感じ、癖痛を訴え、過敏圧痛がある。腸の蠕動不安がある。下痢数十回粘液便である。便意を催すと落痛増加する。これは盲腸炎によるドウグラス窩膿瘍である。
蠕動不安を目標として大建中腸で軽快し、安眠できるようになり、膨隆は縮小してきた。
一週間服用の後、多量の悪臭ある膿を大便とともに排泄し、諸症状が漸次消失し、その後10日間の服用で全治した。
現代病名:ドウグラス窩膿瘍
40歳の婦人。
初診は昭和31年2月であった。15年前に卵巣嚢腫の刷出手術をした。手術後腹痛を訴えたので再手術をした。その後虫垂炎となり、開腹手術をしたが、癒着のため困難をきわめたという。下腹はメスの痕で一杯である。昨年6月に胆嚢炎といわれ、黄疸を起こした。12月になると右の下腹が張って、すごく痛み、高熱が出たので外科病院に入院した。あまりに傷跡が多く、癒着がひどいので、手術はしない方がよいと保存療法をしてくれて、やっと激しい症状は去った。退院したが37度を越す微熱が続き、全身倦怠感が甚だしく、嘔気があり、口渇を訴え、足冷が甚だしく、右下腹部の惨痛を庇護するため、身体が右へ曲がってしまった。
顔色は黒ずんで汚ない。痩せ衰えて骨と皮ばかりという感じ。体重は35キロ(9貫目)しかない。腹は心下部播硬状、右下腹部に抵抗圧痛が甚だしく、脈は細くてしかも緊脈である。舌に白苔がある。
私は初め桂枝加芍薬湯を与えたところ、腹張りと腹痛と冷えが軽くなった。体重も少しずつ増加してきた。
その後肩背痛や右脇痛などを訴えたとき、延年半夏湯・平肝流気飲を与えたこともあるが、何ともはっきりしなかった。腹は張っているが右下腹癒着のところに蠕動亢進を自覚し、腹鳴もある。そこで大建中腸と小建中湯を合方し(私はかりにこれを中建中湯と呼んでいる)て与えたところ、腹痛や腹張が非常に軽快し、軽作業ができるようになった。
定義:1貫=(15/4)kg=3.75kg
1匁(mom)=3.75g
現代病名:手術後癒着腹痛