【麦門冬湯の臨床効果に関する・エビデンス】…根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)です。
●対象:風邪症候群後に咳漱を呈する25例。
●方法:麦門冬湯投与群13例、デキストロメトルファン投与群12例に無作為割り付けし、「咳日記」をつけさせて、症状の変化を比較した。
ポイント:投与開始後2日目以降で麦門冬湯投与群が有意に抑制効果を示し、一方、デキストロメトルファン投与群は3日目以降で同じ傾向がみられた。
また、前者のほうが後者よりも早く咳抑制効果が現れることが統計学的に示された。
参考文献:日東医誌,51:725-732,2001.
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【麦門冬湯の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
18歳、女子大生。
子供の頃からの知り合いである。色白、やせ型だが、健康で学校とバイトで大忙しという。近頃、コンタクトレンズを入れてから、ときどき目が乾いて熱い感じがするという。咳は特別でるわけではないが、咽喉の乾燥感はあるという。
麦門冬湯をあげたところ、しばらくのんですっかりよくなった。その後、再び起きていない。現在はTV局に勤め大活躍している。麦門冬湯は、滋潤作用があって全体にまろやかな薬なので、さまざまな乾燥症に応用できよう。
現代病名:ドライアイ
27歳男性。
実家がお寺であとを継いでいる。色は白く、なで肩、気弱な所あり。お経の最中に声がかすれて、咳こんでしまい、痰がからんでお経どころではなくなってしまうと来店。特に、お盆やお彼岸になるとひどいという。線香や、香によるものと、忙しさによる疲れからくるものと考えられるが原因を取り除くという訳にもいかず、緩和される様うるおし、つまり感を取り除けたらと、麦門冬湯を投与。一年も服用していると調子がいい、今では、屯用に、お経に出かける時に服用しているという。
現代病名:咳
8歳の男の子D君。2歳のころ気管支炎になり、以来、たびたび発作を繰り返してきました。せきにたんが絡んで、ひどいときには、呼吸困難気味にまでなったのです。
その影響か、顔色が悪く、やせていましたが、子供らしく食欲は旺盛でした。
発作のたびに、近所の医院で処方された対症薬を使っていましたが、その効果もだんだん薄れてきました。
母親が、漢方薬局で相談したところ、小青竜湯と麦門冬湯のエキス剤を勧められました。発作が起きたとき、両方を飲ませると、しばらくたってから症状が効果的に治まりました。
さらに、この漢方を飲み続けるうち、発作自体が間遠になったといいます。
現代病名:慢性気管支炎
妊娠中のSさん(26歳)はこの1ヵ月間ほど、せきが止まらず、たんも切れにくく悩んでいました。おなかの中の子どものことを考えると、副作用が心配な西洋薬を使う気にもなれず、そのまま放置しておいたのですが、せきをするたびに失禁や下腹部の異常な張りなどの弊害が出てきたので、近所の漢方薬局を訪れました。
漢方薬局ではS子さんののどの渇き、不快感、けいれん状に続くせきに対して麦門冬湯を処方。その後、1ヵ月ほど服用すると、S子さんのしつこいせきと絡みつくような痰(たん)が消えました。S子さんは、間もなく生まれてくる子どもを心待ちにしながら、今も麦門冬湯を飲み続
けています。
現代病名:咳と痰
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
27歳の婦人。
妊娠4カ月。せきが出て、お腹にひびき、流産を心配して来た。そのせきは、こみあげるように強いせきで、あとからあとから頻発する。痰はほとんど出ない。のどの奥が乾いている感じだという。
麦門冬湯を与えたが、10日分の服薬で軽快し、20日分ですっかりよくなり、無事分娩した。妊娠咳嗽には麦門冬湯の効く場合が多い。
現代病名:妊娠咳嗽
出典:「漢方診療三十年」出版社: 創元社 (1959) 医師:大塚敬節
21歳の男子。
神経衰弱という。顔色はよくないが、ときどき顔面が紅潮を呈するという。冷え症で、足が冷えるとのぼせる。眠れない。のぼせると、のどがせまくなるように感じる。
脈は浮大で、腹上の動悸が冗進し、胃部に振水音を証明する。桂枝加竜骨牡蛎湯・厚朴湯・酸棗仁湯などで効なく、麦門冬湯ですべてよくなった。大逆上気・咽喉不利が目標である。
現代病名:のぼせと咽喉閉塞
出典:「漢方診療三十年」出版社: 創元社 (1959) 医師:大塚敬節
56歳の主婦。
私の親友の細君である。終戦後結核にかかり、公立病院で診察の結果、空洞が無数にあって不治を宣せられた。入院しているうちにストマイやパスができて、絶望だったその病状が好転し、数年後に大体よくなって退院した。
昭和37年11月、友人より手紙がきて、今度はもう何とも仕方がないとあきらめたが、最後の試みとして漢方薬をのんでみたいということであった。病状は2年前から肺結核に喘息が合併し、発作が起きると、終夜床上に路座して、あえぎもがき、ふとんからはい出し、転げ落ち、もはやこれまでという激しい呼吸困難が続いて、文字どおり阿鼻地獄の苦しみであるというのであった。この発作が半年間続いたので、見るかげもなく痩せ衰えてしまった。肺結核の方は大体よいのであるが、最近は少し動揺し、ガフキー1号で顔色蒼白、診ると脈は頻数にして力なく、腹部は軟弱無力、両肺野に小水泡音とギーメンが交錯して聞こえる。
初め神秘湯エキス末にして3日目から発作が緩解し、麦門冬湯エキス末にしたところ、10日後には半年間続いた苦悶からまったく開放された。食欲も出て元気づき、この2年間ほとんど発作なしで、本方を続服し、すっかり元気をとり戻し、外出も可能になった。
現代病名:喘息と肺結核
出典:「漢方の臨床 11巻7号」発行所:東亜医学協会 医師:矢數道明
韓国の一婦人。年は当時34歳であった。
若いときは美声でよくうたわせられたというが、数年前から、毎年冬になるとすっかり声がかれてしまって、11月から翌年2月までは、朝眼がさめたとき全く声が出ない。
のどがカサカサに乾いて口がきけない。急いで起き上がり、水を咽に入れてうがいをし、咽にふさがった痰をすっかり喀出する。痰は堅くてコロコロした塊りで、それを出すまでが大変な騒ぎで、約一時間もかかってやっと出る。
昼間でも一時間もだまっていると声が出なくなり、咽がカサカサになり、口がきけなくなるので、むりにもおしゃべりするか、何か物を食べるかするという。毎晩枕元に紙を切っておく。眠りにつくまでに咽のわずかの疾を出し、紙が山と積まれるというのである。血熱上逆による咽喉の枯燥である。
私は大逆上気の証として麦門冬湯に桔梗・紫苑・玄参各3.0を加えて与えた。一週間後に、よろこびのあまり電話があった。咽喉がとても気持よい。苦しむことなく痰が出る。よい声が出るようになったということで、冬中この方を続けて数年来の悩みが解消した。
現代病名:咽喉の枯燥
出典:「漢方百話」出版社: 医道の日本社 (1960) 医師:矢數道明