【柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)の臨床効果に関する・エビデンス】…根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)です。
●対象:糖尿病性網膜症43例84眼を含む眼疾患104例156眼。
●方法:柴苓湯を投与した。
単独投与が39例、併用薬使用が65例である、投与期間は4週以上、平均26週で、自覚症状と他覚所見の重症度と一般臨床検査所見の改善度を調査した。
ポイント:自覚症状では、視力障害、変視症に有意な改善を認めた。
他覚所見では、黄斑浮腫網膜浮腫、出血軟性白斑に有意な改善がみられた。
全般改善度は改善以上が32例(30.8%)で、疾患別では糖尿病で4/43(9.3%)であった。
参考文献:薬理と臨床,3:165-179,1993.
●対象:糖尿病患者で尿中アルブミン(クレアチニン補正値)が20-300mg/gCrの微量アルブミン尿を呈する96例。
●方法:柴苓湯を投与した。
服用開始時と服用後6ヶ月に尿中アルブミン値血液生化学検査を行った。
ポイント:服用前後で、尿中アルブミン、クレアチニン、ミクログロブリン、NAG、血清BUN、クレアチニン、血糖HbA1c、フルクトサミンに有意差を認めなかった。
尿中アルブミン値が低下した群では非低下群に比較し糖尿病罹病期間5年未満、HbA1c値が6.9%以下、血中フルクトサミン値が289μmol/l未満の症例が多い結果であり、軽度糖尿病群の腎症の改善には柴苓湯が有効であることが示唆された。
参考文献:Prog Med,17:953-958,1997.
●対象:特発性顕微鏡的血尿と診断された68例。
全例ー女性、平均年齢51.7歳。
●方法:無作為に対照群(23例、無投薬)、芎帰膠艾湯投与群(26例)、柴苓湯投与群(19例)に分類して4週間、プラセポあるいは各方剤を投与して、投与前後で血尿の程度を評価した。
ポイント:著効、改善、不変、悪化の割合は対照群では各々0%、26、1%、52.2%、21.7%、芎帰膠艾湯投与群では各々34、6%、38.5%、23.1%、3.8%、柴苓湯投与群では各々26.3%、31.6%、42.1%、0%であった。
芎帰膠艾湯投与群、柴苓湯投与群は対照群に比して有意に血尿所見が改善した。
芎帰膠艾湯投与群、柴苓湯投与群間には有意差は認められなかった。
参考文献:漢方と最新治療,6:55-58,1997.
●対象:特発性血尿(タンパク尿、血清1gA上昇を認める場合も含めている)と診断された82例。
男性27例、女性55例、平均年齢52.0歳。
●方法:無作為に対照群(32例、無投薬)、柴苓湯投与群(50例)に分類して4週間、プラセポあるいは柴苓湯を投与して、投与前後で血尿、尿タンパクの程度を評価した。
ポイント:血尿に関しては、著効改善、不変悪化の割合は対照群では各々12.5%、9.4%、53.1%、25.0%、柴苓湯投与群では各々32.7%、34.7%、22.4%、10.2%であった。
柴苓湯投与群は対照群に比して有意に血尿所見が改善した。
タンパク尿に関しては対照群、柴苓湯投与群間には有意差は認められなかった。
参考文献:泌尿器外科,7:325-327,1994.
ここに記述した文書は、すべて医師または薬剤師の漢方薬処方箋解説です。医薬品購入使用者の口コミ情報ではありません。
【柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
年齢/50歳代後半 性別/男性。
身長153cm、やや太り気味。少し吐き気がして下痢気味だが、旅行の予定があるので何とかしてくれと来店された。柴苓湯2g分包を2日分渡した。
旅行から帰って来たら、よく効いたと来店された。ただ、奥様にうつったのか、同じような症状が出たので同じ柴苓湯を2日分出した。その後、奥様にもよく効いたと言われた。
現代病名:胃腸型感冒
Yさん(47歳・男性)は、少しでも食べ過ぎると胸が痛くなり、吐き気が起こるので、食後は横になるようにしていました。
Yさんは胃の底が平らになっている澤状胃だったため、少し多めに食べると腸に流れていくまで胃にためておく場所がないため、胃が動くたびに気持ち悪くなっていたのです。漢方を処方する医師を訪ねると、水はけをよくする五苓散と小柴胡湯を合わせた柴苓湯を食前に飲むように指導されました。飲みはじめてからだいぶ調子がよくなり、現在も常備薬として服用しています。
現代病名:胸の痛みと吐き気
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
高校1年の夏に、腎炎からネフローゼ症候群となって入院したKさん(19歳・男性)。
期間を置いて、ステロイド剤を投与する治療法が試みられましたが、効果はみられませんでした。そこで母親が主治医と相談の上、漢方の専門知識を有する医師の診断を受けることになりました。
医師はKくんの腹部、脈、症状、これまでの経過などから実証と判断し、柴苓湯を処方。すると2日間で合計8,000mlもの尿が出て、強いむくみが劇的に解消されたのです。K〈んは1ヵ月半ほどで退院し、むくみがなくなってからは3年ほど小柴胡湯と六味丸を服用した結果、たんぱく尿もみられなくなりました。
現代病名:ネフローゼ症候群
高血圧症とアルコール性肝障害…39歳の男性会社員です。
主訴はじんま疹。約半月前から全身にじんま疹が出るようになりました。出ると、しばらく痒いが半日ほどで自然に消える。同時に夕方になると、足が腫れます。
最近、少し下痢をしゃすくなったが、食欲はふだんと変わりなく、とくに体がだるいとか、疲れやすいというような感じもありません。日ごろ健康には無頓着なほうで、血圧を測ったり、検査を受けたりしたことはないが、長年、毎日アルコールをたしなんできました。
身長:168センチ、体重68キロ。体格がよく、がっしりとして、いわゆる実証タイプです。血色は良好ですが、顔がややむくんだ感じです。
舌は淡紅色で湿潤し、厚い白苔があり、脈は弦で力があります。脈拍は86/分で整。血圧:163/114で高血圧気味です。
腹壁は厚く平坦で緊張良好、胸脇苦満をみとめます。下肢に浮腫があり、押すと陥凹し、また脛骨陵に結節様の紅斑が数個みとめられます。
主な検査所見はGOT114、GPT115、γ-GTP239、LDH615、総コレステロール値266ミリグラム(血清1デシリットル中)、中性脂肪267ミリグラム(同)と、肝障害と高脂血症があり、アルコールの過剰摂取に起因する脂肪性肝障害のようです。
浮腫や舌の状態、弦脈、胸脇苦満などの所見から、この方は痰飲の証(体内の水分過剰)に肝気鬱結(肝の疏泄作用=後述=の障害)を伴っており、寒熱の状態は熱証と診断されました。そこで柴苓湯エキスを1日7.5グラム、三回分服で処方しました。
一週間後には血圧が123/91に下降し、40日後には浮腫、じんま疹をはじめ自覚症状はすべて消失。血圧は正常、検査所見もGOT38、GPT49、γ-GTP96と改善しました。
漢方では肝には、
①胆汁排泄と解毒作用を営む
②五臓六賄の円滑な働きを調整する
③さらに怒りの感情を処理し、精神ストレスに対処する
などの働きがあると考えられており、これらを総称して「肝の疏泄作用」と呼んでいます。一方、腎は全身の水分代謝を調節しています。
高血圧を起こす最も大きな要因はストレスと水分代謝の停滞による循環血液量の増加で、これに関係が深いのは肝と腎と考えられます。アルコールのとりすぎは体内に湿熱(のぼせと水分過剰)を生じ、肝腎の働きを失調させます。
柴苓湯は、肝の疏泄作用を改善する小柴胡湯と、腎に働いて体内の余分な水分を膀胱から尿にして排泄させる五苓散とを合わせた処方ですから一つの処方でアルコールによる肝障害と高血圧という二つの、一見異なった病気を同時に治すことができたのでしょう。
現代病名:蕁麻疹
出典:「いのちを養う漢方講座」 発行所:葦書房(2000) 医師:高山宏世