ここに記述した文書は、すべて医師または薬剤師の漢方薬処方箋解説です。医薬品購入使用者の口コミ情報ではありません。
【安中散の症例・治例】…次の症例に近い病症の方は、本方剤をお奨めします。
39歳の婦人。
胃痛を主訴として来院した。腹診すると、腹部に力なく膳部で動悸を触れる。痛みは軽く、圧痛はなく、食欲はあるが痛みを恐れてひかえている。大便は1日1行ある。私はこれに安中散を与えたが、1ヶ月ほどの服用ですっかりよくなって、休薬した。
それから半年ほどたったある日、この患者が来院し、また胃が悪くなって吐くようになったという。診療してみると、妊娠3ヶ月でつわりの症状である。私は、この旨を患者に告げたが患者は、結婚16年になるのにまだ一度も妊娠したことがない。いま頃になって妊娠するはずがないといって素直に私の言を信用しない。そこで婦人科に診せたところ、私の言った通り妊娠で、月満ちて、りっぱな男の子が生まれた。
安中散は胃酸過多症、胃潰瘍、胃下垂症などで、胃痛のあるものによく用いられるが、この処方は元来【疝】(せん)による腹痛を治する目的で作られたものである。この患者が妊娠したのは、疝がこの処方で良くなったためかもしれない。
現代病名:胃痛
出典:大塚敬節「漢方診療三十年」
40歳代の男性。
トラックの運転をしていて、非常に神経を使うため、胃酸過多症がなかなか治らないという。体格はガッチりしているが、小柄な人で、便秘などの症状は特にない。ただ胸やけと、胃痛があるというので、安中散を与えた。
根気よく服用して、約半年以上経ってすっかり胃の調子がよくなった。
現代病名:胃酸過多症
出典:山ノ内慎一「漢方と民間療法」
Cさん(42歳・女性)の胃のもたれは、痛みを伴っていました。
診察を受けると、おなかが冷たくなっているとのことで、前日の食生活を尋ねられました。冷たいビールを夜遅くまで飲んでいたという話をすると、胃もたれも胃痛もそれが原因だろうといわれました。
出された漢方薬は安中散でした。暴飲暴食で胃の働きが衰え、痛みを伴うときにはよく効くとのことです。翌日には、胃もたれも痛みも消え、食欲も回復してきました。
現代病名:胃もたれ
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI
20歳、女性。
体格普通、高校までスポーツをしていましたが、時々胃痛がありました。社会人となり、対人関係でストレスが多く、再度胃痛が続き病院にも通いましたがよくなりません…と父親が来店されました。
とりあえず安中散をお渡ししました。
次回は本人も来店されました。貧血、生理痛、冷え、食が細い、などもあるそうです。安中散で痛みは楽になるとのことなので、生活面、食事法などを説明し、加えて双参を服用してもらったところ、1ヵ月ほどして「気」も大きくなり、生理痛も少なく、体力も増してきたとのことです。現在2ヵ月目に入り、続けて服用中です。食事と生活の注意は守ってもらっています。
現代病名:胃痛
会社役員のAさん(60歳)は、若いころから体が弱く、胃も弱い体質でしたが、最近は頻繁にげっぷが出たり、酸っぱい液体が胃から口の中に込み上げてくるので困惑していました。
かかりつけの病院で胃の内視鏡検査を受けたところ、胃液の分泌過多の傾向があるといわれ、制酸剤などの薬の処方を受けました。
ところが、病院の薬はAさんには強過ぎるらしく、服用すると胃の痛みを感じることもありました。
そこで、漢方の専門家に勧められた安中散を1週間ほど服用すると、胃の不調感やげっぷなどの症状が緩和されました。
現代病名:胃酸過多症
出典:「漢方LIFE」 発行所:DeAGOSTINI(2005) 担当医師アドバイス
Rさん(40歳・女性)は、げっぷが出やすいこと、また、ときに胃液が逆流して胸の辺りがヒリヒリすることにずっと悩んでいました。病院でもらった胃薬を飲んではいるものの、全くすっきりしません。
そこ
で、漢方薬を取り扱っている別の病院に行ってみることにしました。
近所で漢方に詳しいと評判のその先生は「やせて体力がなく、おなかがひんやりと冷えているあなたにはこれがいい」といってRさんに安中散を処方してくれました。
すると、この漢方薬を服用して2日間ぐらいたったころから、とても臭いげっぷが出るようになったのです。しかも、その数日後には黒い便が驚くほど出たそうです。
そ
して、その日を境にげっぷは少なくなり、1ヵ月後には胸やけもすっかり収まったのでした。
現代病名:逆流性食道炎
Yさん(66歳)は小柄で色白、小さなことにもよく気がつくタイプの女性です。
若い時分は、家業であるタバコ屋の看板娘として、近所でも評判の美人でした。
数年前、ご主人が亡くなってからは、娘夫婦のもとで暮らしていましたが、ちょうどそのころから胃の具合が悪くなり、何かしら思い悩むことがあると、すぐに胃の痛みを感じるようになりました。みずおちのあたりが冷たく感じられ、胸焼けもあります。
病院からは慢性胃炎と診断され、あまり気をつかい過ぎないようにとのアドバイスを受け、薬局からもらった薬を飲んでいましたが、一向によくなりません。
持病だった冷え症の痛みと合わせて、とてもつらい思いをしていました。
そんなYさんを見かねた知人が、近所の漢方薬局を紹介してくれました。さっそく訪ねてみると、いくつか質問をされたり、人指先でおなかを押されたりしました。
診断の結果、処方されたのは安中散です。
漢方では、同じ病気であっても、比較的元気な人とそうでない人には、まったく別の薬が使われる、ということをYさんはこのとき初めて知りました。
1ヵ月ほど服用しているうちに、胸焼けがなくなり、痛みも少しずつ和らいでいきましたが、さらに驚いたのは、冷え症も改善されたように思えたことです。その後、1年ほど服用を続けると、あれほどひどかった胃の痛みが、うそのように消えてなくなりました。
今でも、心配事があったりすると、ときどきはおなかに痛みを感じることもあるそうです。「こればかりは神経質な性分だから仕方ないけれど、安中散を飲めば痛みも取れてすっきりするのよ」と、タバコ屋の看板娘だった時代と変わらぬ元気で、魅カ的な笑顔で語るYさんです。
現代病名:胃痛と冷え症